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【失敗から学ぶこと】−D 神原節雄∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
ビジネス会計人クラブ・経営指導分科会
(2004.11.16/アルカディア市ヶ谷)
5.会計人に望むこと 会計人に望むこととありますが、
恐れ多くも先生方の前で私ごとき者が生意気と苦笑のおもいでしょうが、
経営していたころに戻り、
その当時に会計事務所はこうあって欲しいと考えたことを思いつくまま話してみようと思います。
どうか、越権行為をお赦しください。
@顧問先への指導について
・数字を駆使する魔法使いであってはならない
・顧問先への説明に専門用語は使わない
・所長先生が自ら顧問先に足を向けるべきだ
●今の社会はものすごいスピードで二極分化が進んでいると思われます。
良いところに人、物、金が集まり、
そうでないところには皆無であるといういう現象です。
バブル好況時には、
その点実に曖昧模糊で鷹揚なところがありました。
そして、
それがゆるされていました。
それでは、
その二極化は定着したかというと、そうではないと思います。
まだ進行中であり、
この現象はいつまでも続くし世の中の状況に合わせて遅速が合わされるものだと思います。
会計事務所の業界は競合社会であるのか、
そうでないのかそのあたりは定かに存知あげませんが、
私の情報からすれば競合業界でないような気がします。
やはり、これからの会計事務所は、
戦略情報提供型を求められるものではないかと思います。
少しでも他所との差別化をはかり、
それから付加価値を生ずることをしていかなくてはならないのではないかと思います。
そういう観点から申し上げるのはどうかと思い恐縮ですが、
たとえば、
同じ【士】のつく稼業で法務局近くに並んでいる司法書士がいます。
たまたま、
法人の印鑑証明やその他の書類をとるのに代行をお願いしたとします。
その事務所で対応に出た人が無愛想で気にくわないとなると、
次に行くときは隣の事務所に変えることも出来ます。
会計事務所の場合は、
そうはいかないと思います。
それ相当なチョンボをしない限りそれは出来ないと思います。
それはクライアントの大切な数字との関わりがあるため、
そうは、
簡単に愛想が悪かったからというくらいでは縁切りできない性格をもっているからであります。
A会計事務所の顧問責任
・会計事務所は事務処理業務より経営指導に重点をおいて欲しい
・顧問先社長が財務諸表を読めるように徹底指導
・赤字経営の社長を遠ざけずに頻繁に接触の機会をつくる
・決算処理を終えてから「赤字」を告げるのは無慈悲で残酷な仕打ちだ
・クライアントが提出する数字の正誤を見抜け
それと同時にクライアントは、
一回顧問となってもらったらそうは簡単には変更しないという慣習のようなものがあります。
会計事務所を変更すると言うことは実に勇気のいることであるからなのです。
その会社が存在しうる限り関係が結ばれているようであります。
だからといって太いパイプで信頼がつながっているかといえば実に疑問であります。
●経営には数字はつきものです。
クライアントには「数字」を「数値」に置き換えて経営するように指導すべきだと思います。
数字と数値の違いは前述しました。
数値には、
その数に秘められ隠された喜怒哀楽のドラマがあると思います。
数値にはそのドラマを醸しだす不思議な性情をもっているとおもいます。
個人差はあってもほとんど中小企業の経営者は数字は読みますが、
数値を読まない人が多いのではないかと思います。
読まないというより読めないと言った方が妥当かもしれません。
特に勘定科目すら解からない人がいるとおもいます。
私なんかは会計事務所が変わった途端に
「完成工事末収入金」「完成工事支払金」「長期前払費用」や
「未成工事受入金」「完成工事引当金」「法人税未払金」などの科目は
以前の経理士の場合はひとつも使ってない科目でしたからびっくりしました。
そしてこの科目はどうして、
左の方の借方にくるのだろう、
どうして貸方にくるのだろうと素朴に疑問をもったものです。
それによって、
どういう意味をなして、
どうして決算書にこの科目が載ってくるのだろうといつも思っていたくらいです。
そのような疑問はいつも持っていたし、
そのような疑問になってくるとバランスシートを視るのが嫌になり視たくなくなるのです。
ですから、
その疑問を解決してやるとクライアントから物凄い信頼を寄せられると思います。
私の現役時代に、
他社の社員から、よくこんな話をしていることを耳にすることがあります。
「うちの社長はバランスシートが読めるのだ」と聞きますと、
ものすごくその社長に尊敬の念を抱きました。
「うちの社長は営業が巧くてよく仕事をとってくるのだと」
と聞くと、
どうも思わないのです。
「社員のする仕事を社長がするのか?
社員の仕事を横取りしているのか?社長ができるのは当り前ではないか?」
としか思いませんでした。
クライアントは会計事務所に対して、
「決算書」がよく読めるのは当り前にしか思ってないのです。
会計事務所にお願いすることは、
数字、数値に弱くて音痴の経営者をぜひ啓蒙し啓発するように努めてほしいのです。
クライアントには決算書をお経本だと思っている人がいると思います。
経本のようなむずかしい決算書を簡略に
解かりやすく読める工夫してあげるとよいと思います。
会計事務所にわたる数字は、
クライアント自体にとっては命の数字です。
その数字を読むのにチンプンカンプンでは不幸の限りでありませんか。
ここでもっとも強調して教え諭すことは「数字は嘘をつかない」ということです。
そして会計事務所は数字を扱う魔法の人、
いわゆる数字を駆使する「魔法使い」と思わせてはいけないということです。
つまり・・・
(1)死んだ数字や、ウソの数字を追いかける番人になってはいけないと言うことです。
(2)クライアントが会計事務所に対して「魔法使い」と評することは、事実は赤字であるのを黒字に転化させる行為のことです。それは粉飾しかないことです。
(3)ここで注意することは、決算をまとめ上げた時点で初めてその期の収支を明らかにして、赤字であることを告げると云うことは職務として不親切極まりないことであり、クライアントにとって至って残酷なことです。
(4)試算表に月次試算表をまとめ上げている時点で毎月の損益のプロセスは判明するはずであるから、その時点で数値を示して指導しておくべきです。
(5)一番最善の方法は、月次決算書を結んでいる途中において、欠損(赤字)を見つけてやり、黒字になるように方向性を見いだせるように指導してあげることではないでしょうか。
●難解な勘定科目の用語解説などを網羅したものを解説して渡してあげればクライアントは本当に助かります。これは一つの戦術行為です。
B顧問先との経営情報の連携強化
・黒字経営の社長を褒めよう
・赤字経営の社長とは徹底的な原因追及
●会計事務所はクライアントが決算を結んだときに欠損(赤字)を計上したときは、
会計的に正しく指摘し、
教え導いてやるとクライアントはどんなに心強く
会計事務所の指示を真摯に受け止め真剣に経営に当たると思います。
その時に、これ以上赤字を続けると将来このようになるよと、
シュミレーションを作成して示してあげると…、
尚、効果と信頼度が増すと思います。
「改善点はこの点ですよ。」「この科目を改善してください。」と
書類に記述して渡してあげると良いと思います。
赤字を計上して指摘する場合は、
クライアントを会計事務所に呼びつけて指摘してあげた方が効果があるでしょう。
その指摘する役目は当然ですが、
会計事務所のトップが行なった方が良いと思います。
逆に利益を算出した場合は賞賛してあげることを忘れないことです。
その場合はクライアントの会社へ訪問してやった方が良いと思います。
どちらもクライアント側の社員が注目しているのです。
社長は今、
会計事務所の所長に呼ばれて、
赤字を出した原因を指摘されているのだと社員に思わせることです。
その両方を行なうことでどれだけ会計事務所の権威が保たれることでしょう。
会計事務所がクライアントの提出する数字をより厳しくチェックするとなると、
クライアントは巧みに虚偽の数字を出すようになるかも知れません。
欠損を続けているクライアントにはしばしばあることです。
その行為を見抜く慧眼力と洞察力を養い持っていなくてはなりません。
●所長の「経営診断」と称して財務諸表の分析をしてあげたらよいと思います。
収益性の分析
安全性の分析
成長性の分析
生産性の分析
くらいはしてあげたらよいと思います。
注意することは経営診断するときに、
余り専門用語やカタカナ語を駆使して並べたてないことです。
バランスシートや損益計算書を基に財務諸表分析するわけですが、
算式だけを示すだけでなく、
たとえば収益性においては、
会社の目的である(利益)の程度はどれだけかを判定する分析であり、
経営分析の中で一番大事な分析であるとか、
各分析の内容を克明に分析して、
クライアントの経営内容の位置を示してあげるとよいと思います。
その算式なんかは、
書店で売っている経理の本などに書いていますが、
たとえば、
自己資本利益率は年間純利益÷平均自己資本×100=とありますが、
平均自己資本は決算書のどの科目からもってくるのか、
あるいは、
総資本回転率は年間売上÷平均総資本とありますが、
では、
平均総資本とはどういうのを指すのか、
全然クライアントには理解できません。
自己資本率は何を意味するものなのか、
15%以上のものが良いとありますがそれはなぜか?
総資本回転率は何と連動するか、
その率は高いほどよいとありますが、
どれくらいの数値が妥当なのか、
クライアントとはさっぱり解からないと思います。
●会計事務所の所長先生は、
一年に1〜2回はクライアントのところへ訪問してあげるとよいと思います。
担当者を伴ってでもよく、
中間、本決算を作成してそれを持参するときでもよろしいと思います。
私の場合は、
会計事務所を替えて14年の間、
所長の来訪は1度もありませんでした。
所長がクライアントの事務所へ訪問すると、
異なった緊張感を醸し出し、ものすごく喜ぶものです。
一等クラスのお得意さんの社長や
メインバンクの支店長が来訪するくらいに歓待されると思います。
●利益を計上したクライアントには、
内部留保をすることを勧めるべきです。
徒に節税を勧めることを避けた方がよいと思います。
節税対策は日頃の経営業務で指導しておくことです。
内部留保をするメリット、しないデメリットを詳しく教え導いてやることです。
●クライアントはなぜ会計事務所を先生というのでしょうか。
先生という言葉は敬意をはらい尊敬している尊称だとおもいます。
それは、
自分には為しえないことをするスペシャリストであるからだと思います。
私も、
生涯にわたって先生と呼ぶ人は3人しかいません。
それは、
私の義務教育を教えてくれた学校の恩師です。
それと、
現在、脳梗塞で治療をうけている病院の主治医であります。
そして、
最後は会計事務所の先生です。
前述したように、
かつての私どもの会社は毎年、
期首に経営計画発表会を行なっていました。
この行事はホテルの会場を借りてやっていました。
社員、
来賓を入れて総勢150人くらいでありました。
その発表は社長1人だけで発表する独断場であります。
社長の発表後は必ず来賓の挨拶をいただきます。
その挨拶の筆頭が主力銀行で、
その次が会計事務所所長の挨拶でした。
来賓が着席するひな壇も、
銀行の次に位置して座っていただいておりました。
この席次は、
同じ経営戦略を学んだ全国の仲間が均しくやっていたものです。
そんなことを今更いうのは、
おこがましいかぎりであり当り前のことですが、
会社経営にとって数字を扱う会計事務所を
如何に大切に思っているかを如実に示している姿勢であります。
経営計画発表会は、
いわゆる、
その会社の生命を発表する場であります。
その生命の数字に会計事務所は関わっており、
重要な数値の番人でもあるということを物語っているのです。
★そして、
赤字(欠損)を算出したクライアントには、
心より同情して「なぜ赤字になったか」を検討して「黒字に転化」するには、
どうしたら良いかを共に思案したり、
作戦を練ってあげるといいと思いますし、
そうすることによってどんなにクライアントが心強く思うかと言うことと同時に
一層信頼度の太いパイプが出来ると思います。
会計事務所は、
クライアントが欠損(赤字)を算出したときが付加価値を発揮する最大のチャンスだと思います。
普通は、
会計士事務所は赤字を計上し始めたクライアントを遠ざけていく傾向がありますが、
それはまったく逆行する行為です。