2015年05月01日

リスク・カウンセラー奮闘記−132

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リスク・カウンセラー奮闘記−132
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●『真社会性動物』とコロニー生態

 4年半ほど前に興味深いタイトルに惹かれて衝動買いした『働かないアリに意義がある』の本を久々に書棚から取り出し読み返してみた。
 北海道大学大学院准教授の長谷川英祐氏の著書で、働かないアリだけをサンプリングして集団をつくると、やがて働くアリが生まれてくる…と、興味深い結果になった…と。
 働かない社員を働かせるためのノウハウ本ではなく、興味深い実験結果をまとめたサイエンス本なので、引き込まれるように読み返してみた。

 巣(コロニー)で女王アリを中心にした集団を構成していますが、その「働きアリ」の中には、まったく働かないアリがいるというのです。
 子供の頃にアリの巣を掘り起こし、慌てふためくアリの群れに見入っていたときの様子から、働きアリは全員がずっと働いていると思っていましたが、役割分業により集団が成り立っているのだから、働きアリは常に働いていると誤解していました。

 アリの集団社会は「真社会性生物」「新社会性昆虫」と呼ばれ、「女王アリ」のみが繁殖行動をして、その他の個体はコロニーを構成するために必要な作業をひたすら続けている…と。
 また、働きアリは子を産まないが、働く行動の中の子育てを手伝う行為をとおして自分と同じ遺伝子を後世に残そうとしているのだ…と。一見、子育てという「利他」の行動のように見えても、同じ遺伝子を残す「利己的」な行為でもあると…。

●アリの世界の「反応閾値」は、腰の軽さの個体差?

 前述では「働かないアリ」のことでしたが、集団の中の「働くアリ」だけの行動を観察していると、その中から「働かないアリ」が出てくるのだそうだ。
 アリの集団の中に『反応閾値(いきち)』が原因となっているのだ…と。閾値とは聞き慣れない言葉ですが、辞書によると…生体の感覚に興奮を生じさせるために必要な刺激の最小値のこと…とありました。
 アリの集団の中では、働きアリの目前に、しなければならない必要な仕事が現れると「反応閾値」が最も低い働きアリが取り掛かり、新たに別の仕事が現れたら、それはその次に閾値の低い働きアリが取りかかる…と、反応閾値の低い順に作業にとりかかる…。つまり、個体間の「反応閾値」の差異によって、必要に応じた労働力がうまく分配されているのです。
 「反応閾値」を人間社会の行動から事例を挙げると、部屋の片付けや掃除に着手するタイミングが「きれい好きの人」は反応閾値が低くすぐに掃除するように反応し、そうでない人は、少々散らかっていても気にならない事象は、自分や周囲の人と比較してみると分かりやすいですね。

 全ての働きアリが一斉に同じように働くということになると同時に全員が疲れ、誰も働けないという空白時間ができてしまう。コロニーには、僅かな時間でも手を空けられない卵の世話など重要な作業があるので、短時間でも作業を中断してしまうとコロニーの存在が危ぶまれるといいます。
 働きアリが一斉に働いたり働かなくなるより、しばらく休んで回復してから再び働き始めることで労働の停滞を防ぎ、コロニーを途切れることなく継続的に維持管理するために「働かないアリ」の存在が重要だったのですね。

●サルは…どの個体も子を生み順位制で生活している

 群れをつくって行動するサルの社会では「ボス猿」がいて、「見張り役」のサルがいるというように順位制に基づいて統率をとって集団生活が成り立っています。そしてサルは、どの個体も子を産む(産ませる)ことができ、繁殖に関わる分業が確立されているという大きな違いがあります。また、「女王アリ」だけが子を産み、働きアリはコロニーの維持のためだけに働くという「真社会性昆虫」とは異なることが分かります。
 最近では、アリの生態が深く研究されるようになり、人工知能や、生産性の研究においても働かないアリの存在は、「ムダを省くこと」「ムダを楽しむ=余力」として取り上げられていますが、果たして企業内にはそれだけの余力が許されるのかどうか…??

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