2015年03月01日

工人の非を責めず 我が身の不徳を思うべし

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リスクのクスリ
工人の非を責めず 我が身の不徳を思うべし
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◆施工トラブル発生の責任はだれに?

 モノ造り大国における日本の建築物は、見た目の美しさもさることながら、建物を造り上げる多くの職人(工人)に対して采配をふる棟梁が、如何に素晴らしかったか…だ。
 過日、尾形尊信氏が『たまゆらサロン』に来社されたとき、法隆寺の五重塔の話題になった。
 五重塔の屋根の曲線は懸垂線ということ…、五重塔の5階から1階まで塔の中を通る心柱は5階部分から吊されていて地面には固定されているものではないということ…、そして、修復の時に発見された…心柱の頂点部分に建立した時の棟梁の言葉が小さな木札に書かれていたという、実に興味深いものでした。
 宮大工の口伝として現代にまで伝えられている言葉であるとのこと。それは…
 塔組みは木組み 木組みは木のくせ組み 
 木のくせ組みは人組み 人組みは人の心組み 人の心組みは 棟梁の工人への思いやり
 工人の非を責めず 己の不徳を思え

 木造建築の塔を組み上げるときは材料の選別から始まるのだという。「くせ木」を組むには、集めた「くせ木」以上に「人の心」をつかむことが重要なのだといい、間違いのないしっかりした共同作業が進められるように棟梁は職人の一人一人の人間性を掴むと共に、思いやりを決して忘れてはならないということだそうです。
  もしも、作業に過ちがあったり事故が起きたときにも、職人の非を責めることはせず、棟梁自身は自分に徳が足りなかったと反省すべきなのだと…。

 工場でプリカットした定型化した材料を組み立てる工法に慣れている職人と施工管理士の関係性は、どこまで深い人間と人間の関係性をつくり上げられているのだろうか。
 信頼関係が希薄な職人が施行した工事ミスが再発しないようにするためには、職人のクセをつかんだ上で積極的にコミュニケーションを深め、職人のクセに合わせた的確な指示を出せる施行管理士でありたいものです。
 『木組みは人組み心組み…工人の非を責めず』を心がけた家づくりをしてほしいものです。

◆くせある人を適材適所で活かす棟梁…

 法隆寺は、西暦630年頃(1385年前)建立された。全国から多くの職人が集められた。そして、その職人達は一人一人の癖があったというのが前述の口伝から読み取れる。
 宮大工の口伝の中には『建立の用材は木を買わず山を買え』『木は生育の方位のままに使え』という言葉があるそうです。山ごと買えば要らない木材が余ると思いますが、さにあらず、癖のある木だから役に立つことがあるというのです。
 企業や組織に置き換えて比べると、その工程に必要なピッタリの人材を見つけると良い仕事ができるということになる。
 前述の『くせのある木=くせのある人』くせのある人を『適材適所』の考え方で活かすことができれば、その組織は偉大な力を発揮することになります。
 棟梁は、職人の才能や技量を評価するだけでなく、欠点や精神的な弱点も知りつつ隠れた能力を引き出すのだといいます。
 木には生育地によって左ねじれと右ねじれの違いがあることを頭に入れていて、くせのある材料を巧みに填め込んで組み上げていたからこそ千六百年以上経った今も地震に耐えているのだ。
 組み上げた結構の組木の一つがずれても、地震や台風によって塔の屋根は崩れる。屋根が崩れて瓦が飛ぶようなことになれば、棟梁は切腹ものだというから、その緊張感はすごいものだと想像できます。
  それだけに職人に対する指導と信頼関係は並大抵のものではなかったことだろう。
 品質管理の行き届いた工場で大量生産される建築材料の品質が万全であれば、必ず高品質の建物ができるものではありません。重要なのはその材料を建物として組み上げる職人の意識。定められた方法を無視して作業していたとすれば、建物全体の品質は維持できないのは当然のこと。その失態が大事にならないよう棟梁が施主に繰り返し懺悔したところで許されるほど甘くはない。施主に対して誤り上手な棟梁は失態を繰り返し、いつしか信頼関係を取り戻せなくなる。
 棟梁の切腹が許されない現代社会でも、職人を責めるのではなく、信頼できる職人を育て活用できなかった自分の不徳を思え…と、自省しなければ…。

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posted by 寛良 at 12:00| 東京 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | ■【RFCレポート】リスクのクスリ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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