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他社との連携における落とし穴(2)
他社との連携における落とし穴(2)
弁理士 酒 井 俊 之
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1.共同研究・共同開発の成果物の取り扱い
企業同士が連携して共同研究や共同開発を行った場合に、当然、何らからの成果物が生まれるがその取り扱いはどのようになるだろうか?
成果物としては、典型的には、新しい技術(発明)や新しい製品デザイン(意匠)などである。
これらの成果物は、1社単独での研究や開発行為により生み出された場合を除いて、基本的には、研究や開発行為に関わった複数の企業の共有物となる。
2.なぜ、成果物は共有になるのか?
多分、共同研究契約書や共同開発契約書に規定があるので、そうなるのだろうと思われるかも知れないが、仮に、このような契約書がなくとも、成果物は共有となる。
そのような成果物の創作に実質的に関わったか否かがポイントとなり、創作に実質的に関わった者が複数いれば、これらの者の共有となる。契約書はあくまで、それを文書として明文化して確認しているに過ぎない。
3.創作に実質的に関わるとは?
それでは、創作に実質的に関わっているか、関わっていないかについて、具体的なケースを挙げて検討してみる。
通常、研究行為や開発行為自体を共同で行っていれば、当然、成果物を生み出す創作行為自体が共同で行われているため、その成果物も共有となる。その意味で、問題となるのは以下のようなケースである。
(1)ケース1:新規な課題の提供と、それを実現した場合
⇒課題自体も新たな視点による新規な課題となっており、これを実現する者との間に一体的連続性があれば、新規な課題提供者もその課題を解決する手段を考案した者も共に創作者となり、その成果物は共有となる。
(2)ケース2:単なる一般的な課題の提出と、それを実現した場合
⇒単なる一般的な課題の提出を行った者は、創作に実質的に関わったとはみなされず、この場合は、その課題を実現した者のみが創作者であり、権利者となる。
(3)ケース3:資金提供と、その資金を使って開発を行った場合
⇒ケース2と同様に、いくら資金を提供しても、研究開発や製品開発に関わっていない者は、創作者にはなれない。この場合は、ケース2と同様に、開発を行った者のみが創作者であり、権利者となる。
なお、この場合に、資金提供者が権利者となるためには、共同研究開発契約書等で予め取り決めをしておくことが重要となる。(契約書が力を発揮するのはむしろこのような場合である。)
また、同様に単なる補助者や管理者も権利者となることはできない。
4.抜け駆けの単独出願
次に、本来は、共有とすべき成果物を、単独で特許出願や意匠出願してしまうケースも散見される。
ちなみに、共同研究開発契約書等では、本事業に関係する特許出願等を行う場合には、(結果として単独出願又は共同出願となるとしても)予め事前通知を相手方企業に対して行うことが課されている。
このような事前通知規定を置くことで、抜け駆けして単独出願することを抑制することになるが、抜け駆けして単独出願を行うケースでは、この事前通知の規定自体も無視されることになる。
明確なペナルティがない以上、事前通知を無視することは容易いのであろう。そして、抜け駆けした企業は、自社の単独の創作行為の成果物だと言い張ることになる。
5.抜け駆けの単独出願に対する対応
このような抜け駆けの単独出願に対して、どのような対応が可能であろうか?
(1)本来共同で出願すべきものを単独で行った場合には、拒絶理由・無効理由になるため、権利化を阻止したり、権利化したものを消滅させることができる。
(2)一方、本来は、自社も共有者として権利者になれたはずが、自らその権利で消滅させることは望ましくない。抜け駆けした企業に独占させるくらいなら、消滅と考えるかもしれないが、権利の消滅は、公共に開放して、だれでも自由に実施できることを意味する。
そこで、自社の持ち分を主張して、単独の権利を共有の形にすることもできる。これは、出願段階でも権利化後(特許になった後)でも可能である。
6.事前対応策
このような権利関係でのトラブルを防ぐ意味では、事前通知も含めて、相手方企業への連絡と確認を密にすることである。その際、口頭だけで済ませず、議事録を作成して相手方の確認をもらうことや、メール等で文書として確認した事項を残しておき、どのような事項に互いが同意したか後日判るようにしておくことが有効であろう。
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◆プロフィール◆ 酒井俊之(さかいとしゆき)

1976年生。福島県伊達市出身。慶応大学院基礎理工学専攻修士課程修了。03年弁理士試験合格。04年弁理士登録。同年、創世国際特許事務所に入所。08年、福島事務所開設に当たり所長に就任。
地方公共団体や新聞社主催の各種セミナーの講師として活動する一方、事業モデル『知財制度の活用戦略』を展開。出願から20日で登録査定という早期の権利化モデルを実現。
東宝経済産業局特許室『東北地域知財経営者及び知財活動復興支援事業』総括委員。東北工業大学非常勤講師など。
◆プロフィール◆ 酒井俊之(さかいとしゆき)

1976年生。福島県伊達市出身。慶応大学院基礎理工学専攻修士課程修了。03年弁理士試験合格。04年弁理士登録。同年、創世国際特許事務所に入所。08年、福島事務所開設に当たり所長に就任。
地方公共団体や新聞社主催の各種セミナーの講師として活動する一方、事業モデル『知財制度の活用戦略』を展開。出願から20日で登録査定という早期の権利化モデルを実現。
東宝経済産業局特許室『東北地域知財経営者及び知財活動復興支援事業』総括委員。東北工業大学非常勤講師など。
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