2014年09月01日

特許異議の申し立てが可能に

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特許異議の申し立てが可能に          
弁理士 酒 井 俊 之
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知的財産の法改正

 商標法における色彩や音の商標を保護する改正のほか、特許法における特許異議申立制度の復活が、平成26年4月25日に可決・成立し、5月14日に法律第36号として公布された。
 復活というのは、もともと特許異議申立制度は、平成15年改正の平成16年4月1日まで存在していたが、特許無効審判に統合され、廃止されていた。
 特許異議申立は、審査が終了して特許が付与されたものに対し(正確には、特許権の成立を公示する特許公報の発行から6カ月以内に)、異議を申し立てる制度であり、登録の信頼性を高めるものである。
 一方、特許無効審判は、特許権侵害訴訟に伴って当事者間で特許の有効性を争う場合が典型なように、権利の有効性を当事者間で争うものである。

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 このように、特許異議申立と、特許無効審判とは目的を異にするものであるにも拘わらず、平成15年改正で統合されたのはなぜだろうか?

 答えは、(いろいろな説明はされているが結局のところ)特許庁の審理負担の軽減が本当だろう。
 そうすると、今回、特許異議申立制度が復活したのは、なぜか?その答えも特許庁の審理負担が少なくなったから(手が空いているから)というのも一理ある。
 ただ、特許異議申立制度が復活した理由は、もう少し複雑である。というのも、今回は、積極的に特許異議申立制度を復活させる必要があった。

 それは、早期審査の運用による影響である。通常、特許出願した内容が公開されるのは、出願から1年6カ月経過時の出願公開である。そして、この出願公開前に審査が終了するのは稀である。(参考までに、特許付与の平均審査期間は、29月、すなわち2年5カ月である。)
 しかし、早期審査を請求した場合には、出願から1年6カ月経過時の出願公開前に、特許が付与されてしまう。その結果、審査過程で第三者が情報提供を行うことができる情報提供制度が、機能しないという事態となっていた。

 余談になるが、実務家として、短期間に特許網を形成する場合には、早期審査を利用することが多い。最初に、コンセプトで数件出願を行い、この数件について早期審査の事情説明書を提出する。早期審査の理由は、(1)中小企業、個人、大学、公的研究機関、TLOによる出願の場合、(2)外国関連出願の場合、(3)実施関連出願の場合、(4)グリーン関連出願の場合、(5)震災復興支援関連出願の場合など、多様であり、どれかには当てはめられる(どうしても困ったら、省エネを謳ってグリーン関連出願にすればよい)。

 そして、出願公開前に、特許査定を1件でも受けたら、これを中心に周辺出願を、この最初の1件の特許公報が発行される前に可能な限り行う。そうすれば、周辺出願は、障害になる先行技術文献がなく、最初の1件と特徴を基本的に同じくするためすべて特許査定に導け、特許網を形成することができる。

 今回、特許異議申立制度が復活するが、このような特許網の形成手法自体は、基本的に変わらない。理由は、特許異議申立制度は、成立した特許の取消のための制度であり、情報提供制度のように、そもそも特許を成立させないための制度ではないからである。

 ただ、特許網のすべての特許を異議申し立てにより取り消すことが困難だとしても、基本特許の1件程度を、関連する論文等を見つけて異議申し立てにより取り消すことはできるだろう。
 その意味で、今後は、競合他社の動向に注視し、新規開発等に伴う基本特許は、(仮に相手が早期審査により水面下で特許を取得しても)特許異議申立制度により確実に取り消しできるようにされたい。

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◆プロフィール◆ 酒井俊之(さかいとしゆき)
酒井先生2.jpg
 1976年生。福島県伊達市出身。慶応大学院基礎理工学専攻修士課程修了。03年弁理士試験合格。04年弁理士登録。同年、創世国際特許事務所に入所。08年、福島事務所開設に当たり所長に就任。
 地方公共団体や新聞社主催の各種セミナーの講師として活動する一方、事業モデル『知財制度の活用戦略』を展開。出願から20日で登録査定という早期の権利化モデルを実現。
 東宝経済産業局特許室『東北地域知財経営者及び知財活動復興支援事業』総括委員。東北工業大学非常勤講師など。

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